Uのあたまのなか

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映画JOKERの真相について ※ネタバレあり

昨日仕事帰りに丸ノ内ピカデリーで映画JOKERをようやく観てきた。

 

予告編を見た時点で「これはスクリーンで観ないと後悔するやつだな」と思い、そのタイミングを伺っていた。もっと早く観たかったけど、入院とかの関係でこのタイミングになってしまったのは仕方がない。部下の何人かが既に観ていて、割と意味深なことを言ってくるから期待値がさらに高まった上での鑑賞だった。

 


『ジョーカー』心優しき男がなぜ悪のカリスマへ変貌したのか!? 衝撃の予告編解禁

 

主人公は中年男性のアーサー。母親と二人暮らしで、ピエロの格好をした日雇いバイトのような仕事で生計を立てている。そんな彼がいかにしてJOKERになってしまったのかを描いた作品。

 

感想

観終えた直後の感想としては、ただただ哀しかった。終始泣きそうになるのをこらえながら観ていた。JOKERになっていく過程と全体的な重苦しい雰囲気に見入ってしまった。上映時間122分がほんとうにあっという間で、なんなら終わってほしくなかった。

 

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ここからネタバレ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

 

 

物語としてはざっくりいうとそこまで悲惨なことは起きていないように感じた。

  • 不良少年に閉店セールの看板を奪われた挙げ句ボコボコにされる
  • 看板を奪われたままお店に返却できなかったせいで弁償させられる
  • 同僚に押し付けられるようにして手に入れた拳銃を小児病棟での仕事中に落としてしまい、クビになる
  • 笑ってしまう持病のせいで証券マン3人に絡まれた結果、3人を射殺してしまう
  • アーサーが欲しがったから拳銃を売ったと嘘をついた同僚をハサミで刺殺する
  • 同じアパートメントの住人が恋人になったと思ったらそれはただの妄想だった
  • トーマスウェインの隠し子だと思っていたらそれは母親の虚言だった
  • 母親にネグレクトされていた
  • 憧れのコメディ司会者マレーの番組で紹介されたと思ったら、小馬鹿にされただけだった

ざっと挙げるとこのような出来事によって、主人公アーサーはJOKERへと変貌を遂げてしまうわけだ。思っていたよりも絶望的ではない。だが、アーサーにとってはその一つ一つが耐え難い苦痛であったことは観ていてわかった。

 

この作品の感想で「JOKERは自分だ」や「誰だってJOKERになり得る」というものが散見されるが、嫌なことや辛い現実を目の当たりにして、それに耐えられなくなった結果JOKERになってしまったというプロットが現実にも当てはめやすいが故であることは容易に想像がつく。しかし、その感想は安直すぎるように思えてならない。

 

生きている以上は嫌なことはそれなりにあるものだ。不平不満を他人のせいにするのは自由だし、そうでもしないとやっていけないのがこの現代だが、ただその部分だけをピックアップして自身に当てはめるのはどうなんだろう。それなら大人の事情で巻き込まれて嫌々戦争に身を投じる事になったガンダムの主人公アムロ・レイであっても同じように現代人に当てはめることは簡単にできる。人間は誰しも狂気をはらんでいるということだとしても、映画JOKERだけが特別ってわけじゃない。

 

また、いろんなレビューやコメントみると、「純粋で真面目な中年男性が社会のせいで悪に染まってしまった」という捉え方をしている方もいるが、それも違う気がする。

 

アーサーは真面目ではあるが、決して純粋ではない。急に笑ってしまうという病気を持った中年のおっさんだ。ただし、人を笑顔にしたいという意思においては純粋であるように思える。だからこそ、人を笑わせるということに対して邪魔をされたり、馬鹿にされることに強いストレスを感じるのだろう。クビにされたりテレビ番組でバカにされたことがまさにそれだ。

 

カウンセラーとの面談の際、アーサーは「間違っているのは社会か?おれか?」というような言葉を発する。最終的にアーサーは、母親の言葉を鵜呑みにしていたが真相は真逆だったり、恋人がただの妄想だったことなどから、自分が間違っていたということを悟る。ここで普通の人間であれば、自分の間違いを正し、社会に順応していくにはこの先どうしていけばいいのかということを考えるだろう。しかし、アーサーは違った。間違いに気がついた上で、あるがままの自分をさらけ出していくことを選んだのだ。

 

印象的に感じたシーンが2つある。

ひとつは、予告編にも出てきているアーサーのダンスシーン。


Joker - Improvised Bathroom Dance Scene (full) HD

電車内と駅のホームで絡んできた3人の証券マンを射殺した後、息せきかけてようやく逃げ込んだトイレで不意にアーサーが踊りだす。押さえつけてきた感情を爆発させ、初めて人を殺したアーサーにとってこの瞬間は凄まじいほどの開放感に包まれていたに違いない。その気持ちをダンスで表しているのだが、決して明るくなければ激しくもない。ゆっくりと噛みしめるように踊るのだ。このとき流れる音楽「Bathroom Dance」が良すぎてサントラ買っちゃった。

 

もう一つは、マレーの番組で登場する直前、舞台裏で神妙な面持ちで腕を組みタバコを吸っているJOKERの姿。ほんの数秒でしかないこのシーンだが、強い決意を胸に出番を待つその緊張感がすごく感じられた。ただタバコを吸ってるだけにも関わらずその佇まいがとにかくかっこいい。かっこよすぎる。タバコ吸いたくなる。

 

真相

本作を観た人達の間で議論されているのが「真相はなにか」という部分。様々な伏線を踏まえると、いくつかの見方ができる。その論点となるのが以下のシーンだ。

 

刑務所あるいは精神科病棟で女性カウンセラーと面談をしているジョーカーが不意に笑い出す。カウンセラーが「何がそんなにおかしいの?」と尋ねると、「ジョークを思いついたんだ。理解できないだろうけど」と答える。このときジョーカーが見ていたはずのない、両親を殺され路地で呆然と佇むブルースの姿が一瞬差し込まれる。

 

この何の変哲もないシーンをどう捉えるのかによって、見方が変わってくる。

 

数多くの考察をまとめると、この物語の真相は以下の3つに分けられるのではないかと思う。

  1. 純粋に時系列に沿ったもの
  2. 冷蔵庫に入ったところ以降は妄想
  3. 全てはJOKERの考えたジョーク、つまり妄想

まずは1、映画の流れをそのまま純粋に受け止めたとき、貧困や数々の災難によって自我を保つことが難しくなった中年男性が、これまで押さえつけてきた感情や気持ちを開放し、それが結果的に同じような気持ちを抱いていた民衆に支持されることになった、というもの。この説が真相だとしたら、問題のシーンは「逮捕後に何らかの形でウェイン夫妻が殺害されたことを知ったジョーカーが、残された息子ブルースがバットマンとなり、両親殺害のきっかけを作ったJOKERの宿敵となるというジョークを考えついた」という見方になる。見たことがないブルースの姿をなぜ知っていたのかということについては、あくまでも両親が殺されたというニュースを知った上でアーサーの脳裏に現れたイメージということであろう。

 

2は中盤でアーサーが自宅の冷蔵庫の中に入り込むシーンがあるのだが、そのとき実はアーサーは死んでしまったというもの。以降のシーンはアーサーの妄想で現実の話ではないということみたいだが、それは流石に無理がある気がしてならない。死んだ後の妄想というのもよくわからないし、死ぬ前に妄想していた流れだったとしても、問題のシーンすら妄想だったのか?ということになる。

 

3は最も有力な説。実はアーサーはただ精神病棟に入院しているだけで、劇中の出来事はまるっとそのまま妄想だったというものだ。その根拠となっているのは「証券マン射殺シーンで拳銃に装填できる弾数を上回る数の銃撃をしている」や「何回か時計が映るシーンがあるがどれも11:11だった」という疑問点で、たしかにそうした不可解な事象もすべてが妄想と考えれば納得できるかもしれない。問題のシーンに関しても、たしかに常人には理解できないようなものである。

 

私個人としては1の説が好きだ。そうなると、その直後にある「血のような足跡をつけて歩くJOKER」というシーンについても、JOKERになって逮捕された後であることからアーサーの残虐性も納得できるし、なんなら「ブルースがバットマンという宿敵となる」というジョークをこれから現実にしようとするのではないか?という期待もできる。

 

とはいえ、監督も主演のホアキン・フェニックスも何が真相であるかということについて、今の段階では言及していない。観客が各々の考えで真相について話すことを楽しんでいるみたいだ。実際にその時が来るかどうかはわからないが、「いつの日か制作側の意図を説明する」という監督の発言もあるようだし、その時まであれこれ考えながら何度もこの作品を楽しもうと思う。

 

この作品の真相は誰かと語り合うより、自分の中で自問自答するかのように考えるのが一番楽しい気がしている。

 

 もう一度観に行きたいが、最悪それができなくてもBlu-rayを買って自宅で何度も観ようと思う。2019年No.1作品であるといっても過言ではない。

 

 

余談だが、場内が暗くなってすぐの上映直前に真ろの席の女性が飲み物を盛大に床に落としたせいで、足元がビチャビチャになったことが印象的だった。あの匂いはきっとアイスティだったのだろう。最低だ。