Uのあたまのなか

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「ぼぎわんが、来る」を読んで、まとわりつく恐怖に痺れる※ネタバレなし

出会いは突然だった

自由が丘の本屋で面白そうな本がないか物色していたところ、平積みされていたのがこの本「ぼぎわんが、来る」の文庫版だった。文庫版の表紙は和のテイストだったので一瞬ためらったが、帯に書かれていた「実写化」と、キャストとして名を連ねていた「小松菜奈」の文字に突き動かされるように購入。(恋は雨上がりのようにを観て以来小松菜奈ファン笑)そんな軽薄なきっかけでこの本を手にとった。購入後、そのまま近くにある「ドトールコーヒー」へと入り、冷房でアホほどキンキンに冷えた2階席で読み始めたのだった。


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著者・あらすじ

著者は澤村伊智先生。本作が作家デビュー作というのだから驚きである。知人の書いた小説の感想を求められ、指摘しようと思ったが書いたこともないやつが言うのはフェアじゃないじゃら、というような理由でかき始めたのがきっかけというのだから異端児だろう。そんな作者の書いた本作はホラー小説である。

あらすじは以下の通りである。

幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。正体不明の噛み傷を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのだろうか? 愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか……。怪談・都市伝説・民俗学――さまざまな要素を孕んだノンストップ・ホラー!最終選考委員のみならず、予備選考委員もふくむすべての選考員が賞賛した第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞作。

出典元:KADOKAWA

得体の知れない者が迫ってくる恐怖

タイトルにもある「ぼぎわん」、本作はこの「ぼぎわん」という恐怖の存在を軸に物語が展開されていく。鈴木光司原作「リング」に登場する、もはや知らない人はいないといっても過言ではないほど世界的な知名度を誇る貞子(正確にはその実写映画に出てくる長い髪を垂れ流した白装束の姿を指す)というホラーアイコンがいるが、本作の「ぼぎわん」もそれと近い存在になれるのではないかと思うほどに、強烈なインパクトを残している。得体の知れないものと言うのはこれほど恐怖心を掻き立てるのか、と再認識させられた。そもそもネーミングが不気味だ。作中ではその語源に触れる箇所があるが、その上でもおぞましく感じてしまう。見た目についてはぜひ読んでみてほしいので割愛するが、正直私自身未だに掴みきれていない部分はある。そんな得体の知れない存在がじわじわと、そして確実に迫ってくるのだから恐怖でしかない。

ただのホラーではない一味違った構成

主人公は田原秀樹。家族を愛するイクメンパパだ。彼が電話越しに誰かに指示を仰ぎながらなにかに怯えるシーンから物語が始まるのだが、その時点で私は一気に引き込まれた。「何に怯えてるのか?」「電話相手は誰なのか?」「一体どんな状況なんだ?」という気持ちが頭の中を駆け巡って、ページをめくる手が止まらなかった。そこからそのシーンに至る過程が描かれていくのだが、ただそれだけで終わったなら私もここまでハマることはなかったかも知れない。本作は結末までに”いくつかの側面”を見せるのだ。そのいくつかの側面を知ったことで恐怖が倍増する。こんな些細なことで恐怖を感じることになるのか、と思わず唸った。とまあこんな抽象的なレビューではこの記事を読んでいる人にとっては意味不明かも知れないが、説明をしてしまうと面白さや恐怖が半減してしまうため難しいところなのだ。とにかく読んでみて。

個性的な登場人物のキャラ立ちっぷり

登場人物も癖が強い。田原秀樹は理想的なイクメンパパかと思いきや、ある一面を持っているし、その妻田原香奈も大人しい妻だけでは終わらない。そして特に個性が強いのが比嘉真琴、野崎崑、比嘉琴子の三人である。比嘉琴子と真琴は姉妹で、どちらも強烈。真琴はピンク色のヘアーという見た目とは裏腹に子供好き、打ち解けるのも早く人間的でもある。反対に琴子は人を寄せ付けない雰囲気を放っていながらも、きちんと他人に配慮ができるし、躊躇なく相手に踏み込む思い切りの良さも持ち合わせている。なにより、秘めた力の大きさが半端じゃない。野崎は掴み所がないようで芯がしっかりとしていて頭が切れるが、意外にもお菓子作りというスキルを持っていたりもする。他にサブキャラクターも何人かいるが、いずれもさほど出番はないにもかかわらず印象的だ。そんなキャラクターたちが、ぼぎわんに翻弄される様は面白いし、手に汗握る。

2018年12月実写化!

そんな本作が2018年12月7日に劇場公開作品として実写化される。主演は岡田准一。共演に妻夫木聡黒木華小松菜奈松たか子。監督は「渇き。」などで知られる中島哲也だ。

正直言って、本作を読んだ上で映画化のことを思うと期待しかない。もちろんぼぎわんの描かれ方によっては、作品の評価が大きく変わってしまう可能性があるので不安もある。だが、原作のあの巧みな物語がスクリーンであの実力派のキャストたちによってどのように表現されるのかと考えたらと待ち遠しくて仕方がないほど楽しみなのだ。上記の特報映像を何度も見返しては期待に胸を膨らませている。高速で切り替わる映像をコマ送りにして、原作のどのシーンか推理したりもしているのだから、客観的には異常だろう。

決して1発屋ではない実力派

澤村伊智先生は、本作だけの一発屋ではない。すでに4作発表しており、そのどれもが面白いし怖いのだ。ホラー小説の面白さを改めて味わうことができた事には感謝しかない。私の中でいま最も注目している作家であり、この先どんな物語を世に送り出してくれるのだろうとワクワクしている。2018年10月24日には新刊の発売も予定しているので、非常に楽しみだ。