Uのあたまのなか

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【ネタバレ】澤村伊智先生の新作「などらきの首」を読んだ

待ちにまった最新作は短編集

「ぼぎわんが、来る」の著者、澤村伊智先生の最新作「などらきの首」が2018年10月24日(水)に発売された。「ししりばの家」から約1年4ヶ月ぶりの新作、比嘉姉妹シリーズ最新作でしかも文庫本。期待に胸を膨らませて早速仕事帰りに目黒駅前の書店で購入した。

短編集ということもあり、 304ページというさっぱりとしたボリューム。表紙は映画「来る」とのコラボ要素のあるデザイン。ショッキングピンクの背景に作品名と著者名だけというシンプルながらとても印象に残るものになっている。


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収録されているのは書き下ろしとなる表題作を含む全6篇

購入後知ったのだが、今作に収録されている6篇の中で書き下ろしは表題作のみ。他の作品はこれまでに雑誌や電子書籍版の特典として発表済みのものだ。私は全て読んだことがなかったので存分に楽しめた。

収録作

  1. ゴカイノカイ
  2. 学校は死の匂い
  3. 居酒屋脳髄談義
  4. 悲鳴
  5. ファインダーの向こう
  6. などらきの首

感想

ゴカイノカイ

比嘉真琴が登場する話。長い金髪になっているみたいで時系列的には「ぼぎわんが、来る」のあとになるのかな?あらすじとしては、所有するとあるオフィスビルの5階だけ短いスパンで入居者が出ていってしまい、皆口々に「痛い…という声が聞こえてそのうち自分の身体も本当に痛くなっていく」というので、困ったビルオーナーが比嘉真琴に依頼するのだが…というもの。

いったいどんな霊あるいは化物の仕業なんだろうと身構えていたら、真相が思っていたのとは違う角度だったのでいい意味で驚いた。まさか「痛いのいたいの飛んでいけ~」が飛んできていたなんて。蓋を開けてみればシンプルなものだったが、堅気じゃなさそうな潰し屋のくだりなんかは本気でどうなってしまうんだろうと恐怖した。続きが気になるウィットなオチがまたいいんだよ。

学校は死の匂い

これは哀しい物語だった。幼き日の琴子、美晴、真琴が登場。物語は美晴視点で進む。あらすじは、琴子に負けじと”本物”に出会うために学校の怪談の検証をする美晴が、同級生の証言どおり体育館の白い少女の霊に遭遇しその正体を暴こうとするのだが…というもの。

ミステリー要素も良いのだが、少女の霊がなぜ雨の日になると繰り返しキャットウォークから飛び降りるのか、という謎の真相が哀しかった。運動会の組み体操の練習中にピラミッドの一番上から転落して首の骨を追って死んでしまったということもそうだし、なにより同級生と教師がそれを隠蔽したことや、その隠蔽を事実だと見せかけるために9年間も雨の日になるたびに、嘘の試飲を再現し続けていたなんて。死んでもなお苦しみ続けていたなんてえぐすぎる。最後は佐伯と天野に復讐したってことなのかな。美晴の「好きに死になよ」の言葉に背中を押された結果なんだろう。

居酒屋脳髄談義

これは目から鱗だった。読み終えた瞬間に「これはすげぇ…」と漏らしたほど。あらすじは、男3人女1人の4人組が居酒屋でいつものようにお酒を飲みながら議論を繰り広げるが、いつもは一方的に責められるだけの女性がいつもと違って3人に対して論理的に反論し始めて…というもの。

状況を理解した途端に鳥肌が立った。誇張ではなく本当に。まさか「死んだことを認識していない幽霊の視点」で描かれていたなんて思いもしなかった。通常霊側の思考が描かれることってないと思う。たしかに考えてみたら、霊自身には死んだという自覚は指摘されないと生まれないだろうから、こういう感覚なのかとなんか納得した。私は賢くないので、こういう論理的な議論が展開される物語が非常に面白く感じる。特にマウントを取りに来た相手を完膚なきまでに徹底的に叩き潰すところなんかスカッとする。個人的には本作で一番オススメの作品。

悲鳴

これは不思議な気持ちになった話。ちゃんと理解できていないんじゃないかって気になる。というか実際理解できていないと思う。あらすじは、大学のホラー映画同好会が企画した映画のキャストに誘われた女子大生が、殺人事件の噂がある場所で撮影をしたことをきっかけに周辺で不可思議な現象が巻き起こる、というもの。

最後の最後直前までは理解できているんだけど、結局のところリホの言霊につられて江藤の供述が変化してしまったのか、単に江藤がもっともらしい理由として主張するようになっただけなのか、あるいは千草が黒幕?難敵もしてきた入りしてよくわかっていない。でも千草が最後に山岸に対してああいう態度をとったのは、単純に馬鹿らしくなっただけな気がするから、真相に気が付かない山岸に呆れたんじゃないかっていう仮説は考えすぎだろう。真剣に読んでいるほど読者も騙される展開なのでドキドキした。

ファインダーの向こう

野崎と真琴が出会うきっかけになった話。とてもほっこりする素敵な話だった。あらすじは、野崎が元売れっ子カメラマンと友人の編集者と一緒に心霊現象の起こる物件に撮影に行き後日ネガを確認したところ、撮れるはずのない不可解な写真が撮れていて…というもの

序盤こそ不気味な展開だったが、編集長に紹介されて初めて野崎と真琴が会った場面や残された写真の意味など、温かみのある展開だった。出会った当時から真琴は今と変わらない感じだったんだなぁとか、最初は真琴に対して試すような態度をとったものの、本物っぽさを感じ取ったらしっかりとした態度に切り替えるなど野崎の誠実さも光る。最後に野崎を呼び捨てにしている真琴の姿に二人の距離が縮まっているのが感じられてよかった。

などらきの首

収録作の中で最も怪談っぽさを感じた話。あらすじは、祖父母の土地で古くから伝わる「などらき」にまつわる恐怖体験を友人から聞いた高校時代の野崎が、その怪奇を解き明かそうとする、というもの。

「などらき」の化物感が半端じゃなかったから、ぼぎわんやずうのめ人形ばりに執拗に追いかけてくるのかと思いきやそこはあっさりしていた印象。と思わせておいて、最後の最後で目的を果たしたところなんか、澤村伊智作品おなじみの絶対許さないマンの本領発揮といったところか。最後の最後で絶望する野崎だけど、まあしかたないって。人間に化けて情報収集するなんてまさかだもん。

短編集ならではの読みやすさ

もともと私は本を読むのが早いので、1日で読み切ってしまった。(というのも一回でしっかりと読み込めないから何度も繰り返し読む習性がある。)ページ数としては多くないので読みやすいものの、読了後の胸のざらつきは健在。などらきの首のラストの展開が余計にそうさせる要因でもあるが。6篇それぞれに異なる色があるから何度も楽しめる短編集だ。比嘉姉妹や野崎のことを掘り下げてくれたことで、よりキャラクターに愛着がわいた。この先もこのキャラクターを見ていきたい。それが正直な気持ちだ。